負け犬も歩けば愛をつかむ。
「人を見かけで判断するようなこと言わないでほしかったです。紳士的な専務が好きなのに」



……とは言っても、私は専務に会ってまだ二ヶ月なんだから、上辺しか見えていなかっただけなんだろうけど。

タコみたいに口を尖らせてたこわさを摘みながら、ふと黙り込んだ椎名さんを見やると、何かを考えるようにしてウーロン茶が入ったグラスを傾けている。

あ……いくら椎名さんが昼間の愚痴に付き合ってくれるとは言っても、悪口ばっかりじゃ嫌だよね。



「ごめんなさい、なんか専務のことばっかり話して。あの、椎名さんのこと聞いてもいいですか?」

「ん? 俺?」



振り向いた彼と視線がぶつかって、少し緊張しながら頷く。聞くといったらもちろんあのこと。



「椎名さん、彼女はいないって言ってましたけど、その……す、好きな人はいるんですか?」



あぁ、ついに聞いてしまった!

私にしては思いきった質問だ。ちゃんと答えてくれるかな?

ドキドキしながらじっと彼を見つめて答えを待つと、少しの沈黙の後、彼は私をまっすぐ見つめ返してこう言った。



「……いるよ、好きな人」



──ズキン、と昼間感じた胸の不快感が、確かな痛みとなって私を苦しめる。

やっぱり、椎名さんは小雪さんという人が好きなのね……。

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