負け犬も歩けば愛をつかむ。
「そ、そうなんですか……!」



ダメだ、上手く笑えない。

一言返すのが精一杯で、彼から顔を背け、俯いて意味なく大根を箸で突く。

ハッキリさせたいと思っていたのに、いざ確信してしまうとショックを隠しきれない。

やっぱり、私に幸運が巡ってくるのはまだまだ先なんだろうか……。



「でも、その子は俺じゃなくて別の人のことが好きみたいだけどね」

「──え?」



意外な言葉が返ってきて顔を上げると、椎名さんは苦笑を浮かべてグラスに口を付ける。



「地位も容姿も、俺はその人には敵わないと思う。それでも諦めたくないってくらい、いつの間にか惹かれてた」



……そう、なんだ。そういえば電話で『完全な俺の片想いだ』って言ってたもんね。

そんなに強く彼女のことを想ってるなんて、私はますます地に落ちていく気分なんですけど。……でも。



「私と一緒だ」

「え?」

「私が好きな人にも、他に好きな人がいるんで」



今度は椎名さんがキョトンとし、私が苦笑する番だ。



「三十にもなってそんな報われなさそうな片想いしてるなんて、正直イタイなって思うんですけど。職場の皆には興味なさそうなフリしてるけど、実際は彼氏も欲しいし、結婚願望もかなりあるし」



二十代なら“恋愛したい!”とか“彼氏欲しい!”とか、何も恥ずかしがらず周りにアピール出来ていたと思う。

難しい恋にも、当たって砕けろ精神で躊躇わずに突き進んでいただろう。

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