負け犬も歩けば愛をつかむ。
「寂しい者同士、今日は慰め合うか」

「……ですね!」



こうなったらヤケ酒よ。

お酒のメニューを差し出してくる椎名さんからそれを受け取ると、“一方通行の恋に乾杯”と胸の中で虚しく唱え、残りの梅酒を喉に流し込んだ。




──そして一時間後。

今日はもちろんシラフの椎名さんのプライベートな話を聞きながら、私は上機嫌で飲んだくれていた。



「……で、たまたま俺が昼寝してたら姪っ子が突然布団の中に入ってきて、『おじちゃんすきー』とか言うからさ。ハンパなく可愛くて思わず抱きしめたよね」

「いいなぁ~!」



何がってもちろん姪っ子ちゃんよ。椎名さんに抱きしめてもらえるなんて!



「やっぱり君も子供が好きなんだね。お母さんになったらいつかそんな日が来るよ」



柔らかな笑顔を見せる椎名さんは、きっと私が子供に懐かれるのを羨んでいるのだと思っているんだろう。

もちろん子供も好きだし、いつかは欲しいけどね。

でもその前に私が欲しいのは、抱きしめてもらいたいのは、この色男さんなのよ!



「あぁ~羨ましすぎるぅ……」



情けないけれど、会ったこともない姪っ子ちゃんに嫉妬を覚えながら、私は空のお皿とグラスが並ぶカウンターに突っ伏した。



「あれ、春井さん?」



お酒のおかげですごく気分はいいけど、好きな人と二人でいるっていうのに進展なんかしなさそうなんだもの。ふて寝してやる。

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