負け犬も歩けば愛をつかむ。
抱える仕草をする椎名さんに、私は一気に顔が熱くなる。

それってお姫様抱っこでしょう!? 何で覚えてないの私~~!!

三十年生きてきて、お姫様抱っこなんて初めてされたのに!


でも重かったよね、絶対重かったよね?

恥ずかしくて両手で顔を覆いながらチラリと椎名さんを見やると、いつの間にかネクタイを取っていることに気付く。


──うわぁ、目の毒……

ボタンを外したシャツの間から少し鎖骨が見えていて、ものすごくセクシーだ。

でも何でこんなラフな格好してるんだろう?

……まさか、酔った勢いで的な!?


ありがちな展開を妄想して、今更ながらバッと自分の姿を確認する。けれど、特に乱れた様子はない。

とりあえず安心してふぅと息を吐き出すと、椎名さんはそんな私を見て苦笑を浮かべた。



「忙しないな。何もしてないよ」

「い、いえ! あの、決して椎名さんがそんなことをする人だと思ったわけではないので!」

「……それはどうかな」



不意に彼がこちらを向いたと思ったその瞬間。

肩を押されて、目の前の景色がぐるりと反転した。



「君は俺のことを買い被りすぎてる」



──一瞬の出来事で、何が起こったのかわからない。

柔らかなベッドに背中が受け止められた私を、椎名さんが見下ろしている。

以前、車の中で見たものと同じ、獣のような鋭く熱い瞳で。

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