負け犬も歩けば愛をつかむ。
椎名さんの顔をまともに直視出来ないまま、支離滅裂なことをまくし立てる私。

彼はふっと息を吐くと、私の頭をそっと撫でた。



「本当に抑えられなくなるところだった。ごめんな、好きな人がいるのに」



何故だかとても切なげな表情を見せる椎名さんに、少し罪悪感が湧き上がりズキリと胸が痛む。

罪悪感のせいだけじゃない。

私が好きなのは椎名さんなのに、それを別の人だと思われていることが苦しくて……。



「椎名さん、私──」

「少し頭冷やしてくる。そしたら家に送るから」



覇気のない笑みを浮かべた彼はベッドを降りると、もう私の顔を見ることなく寝室を出ていった。

一人残された私は、ゆっくり上体を起こすと頭を抱えて深くため息を吐き出した。


今、“好きな人はあなたです”と言いたくなったけれど、言ってどうなるというんだろう。フラれることは明らかなのに。

しっかり失恋してしまうのが怖い。そうしたら嫌でも諦めなければいけなくなるから。

この恋が実るような気はしないけれど、まだ諦めたくない。

まだ、そんな勇気は出ないのよ……。


もどかしさを感じつつ、甘いキスの余韻が消えることはなくて、熱を持ったままの身体の疼きはしばらく止むことはなかった。




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