君想い【完】
もう何時間たっただろう。
会社帰りのサラリーマンやOL、予備校帰りの高校生が何人も改札を出てくる。
みんな疲れきった顔をしている。
改札を出て、今日の事を思い返すように煙草に火を付ける30代後半のサラリーマン。
たくさんストラップの着いた携帯を開き、電話をし始める20代前半か後半のOL。
電話の会話は上司の悪口か、彼氏へのお疲れ電話ばかり。
その中にさりちゃんの姿はない。
もう時計の針は10時半を指している。
最終電車も近い。
心配になって何度も携帯を開きメールをしかけた。でも、その手を何度も止める。その繰り返しだった。
「純?」
その声は優しくて、聞き覚えのあるゆっくりした声。
僕にとって一番落ち着く問いかけ。
紛れもないさりちゃんの声だ。
「何してんの?」
「あ…駅前の本屋行ってて、まだお父さん帰ってこないから一緒に帰ろうと思って…。それで待ってた。」
「そっか。一緒に待つ?」
「え?いいよ!危ないからさりちゃん送る。」
一瞬さりちゃんが心から笑った気がした。
じゃ、帰ろっか!
と笑顔を見せて、先を歩き出す。
少し駆け足で近寄って暗い夜道を歩いた。
真っ暗の空に星が散らばって、少ない外灯が僕らを照らす。
少し後ろを歩き、さりちゃんの影を追うように歩く。
一言も喋らなかったが、その沈黙は逆に心地良かった。
気を遣ってたくさん喋ったりしない。
そんな空間を満喫した。