君想い【完】
次の日もやっぱりさりちゃんは同じ時間に家を出た。
そして僕も昨日と同じように後を追う。
切符は210円、新宿行き。
怖いくらいに僕は冷静だった。
さりちゃんがどんなことをしてても僕はさりちゃんの味方でいよう。
そう決心したから、
昨日夜空の下で。
ヒールの音を鳴らしながら繁華街の通りを歩いていく。その後ろを僕は歩く。
気が付くと周りはキャバクラやホストクラブ、
パブやスナック、風俗店が多く並んでいた。
あまりにも刺激的すぎて目をそらしてしまいたくなる。
夜とは思えないくらい辺りはきらめいている。
異世界なのではないか、と感じるくらいだった。
明らか僕が場違いな事をしめしてくれている。
急に立ち止まり携帯を耳にしだした。
ストラップもついていない、真っ赤な携帯。
何を話しているのかは分からない。
口元が動いているから、
確実に会話はしている。
けど、内容は全く分からなかった。
携帯を閉じ、
看板の電気の付いていない開店前のキャバクラへさりちゃんは入っていく。
思わず呼び止めたくなった。
あのさりちゃんがキャバクラに入ってしまった。
頭が働かない。
体は売ってないにしても、
僕の知らない世界へ行ってしまった。
僕にはどうしようも出来なかった。
無我夢中で走り続けた。
まっすぐ駅に向かって。
もう帰ろう、
見てはいけないものは見た。
僕は何も知らない。そう必死に思いこんだ。
冷静だったはずの僕はどこへ行ってしまったんだろう。
目の当たりにすればこの有様だ。
守るとか、その以前の問題だった。
それでも、僕は必死に僕だけはさりちゃんを裏切ってはいけない。
僕だけは味方でいなきゃ。
そう心の中で叫び続けた。
だってさりちゃんを守れる人はもうこの世に僕しかいない。