君想い【完】
今日は直接お店には行かず一昨日のように、
少し廃れたカフェで全身黒スーツの男と話していた。
黒スーツの男は1枚の紙を出し、さりちゃんに何かを書かせている。
都合の良い事にこのカフェには植木が何個か置いてある。
さりちゃんと黒スーツの男は植木の隣りに座った。
座った事を確認した上で僕は反対側に音を立てないように席に着いた。
植木がじゃまで何を書いているのかは分からない。ただ会話は良く聞こえた。
「キャバクラの経験は?」
「少し…」
「どれくらい?」
「1、2カ月くらい。」
面接だ。すぐに分かった。
淡々と質問をしていく黒スーツの男。
それを軽くさりちゃんは答えていく。
まるで何度もこんな面接を受けたかのように。
「このお店はなんで知ったの?」
「配布されていたティッシュを見て電話しました。」
よく町中で配られている派手なティッシュ。
花粉症の時期でも、どんなにティッシュが欲しいときでも、
僕ら男には決して配られることのないポケットティッシュ。
「まあこれ見てよ。」
さりちゃんが記入していた紙の裏に男は何かを書き出し始めた。僕にはやっぱり紙の内容が見えない。
「こっちと、こっち。どっちが楽な仕事だと思う?」
「こっちです。」
「何で?」
「枕営業ないし、同伴・アフターがない。罰金やノルマもないし、客とのメアドや番号交換もないから…。」
「そうだね。キャバクラだと今あなたが言った事は全部あるし、大学生だろ?いちいち授業中に客とメールや電話しなくちゃいけないのは面倒だよね。それに同伴となると学校も大変だろうし。」
「はい…。」
「でもこっちの仕事はそれがないんだよ。学生だから学校で遅刻することもあるだろうし、急にレポートが入って休まなきゃいけないときだってあるだろうし。でも罰金は一切ないんだ。どう?このお仕事はね…」