君想い【完】
ない頭を使って必死に考えた。
まずさりちゃんがここの面接を受ける理由が僕にはよく分からない。
昨日キャバクラに入って行くのを見た。
もしあのキャバクラに勤務しているのだったら、
ここの面接を受ける必要はない。
よっぽどキャバクラという存在が気にくわなかったのか、
もしくはキャバクラには勤務していないか。
それとも掛け持ちか。
思わず転がっていた缶を蹴飛ばした。
考えても考えても答えが見つからない。
僕はその店の名前を携帯にメモし、
ここから出てきても見つからない位置に移動した。
1時間も経っていないだろう。
すぐにさりちゃんは店から顔を出した。
「じゃ考えておいてね。連絡するから。」
黒スーツに頭を下げてさりちゃんは歩き出した。
きっと体験入店というものはしなかったのだろう。
携帯を取り出し、
お店から少し離れた場所で電話をし始めた。
「もしもし?レイ?今終わった。うん、うん。分かった。じゃあ明日行くって言っておいて。ありがとう!じゃあね。」
携帯を鞄にしまい急ぎ足で歩きだした。
自販機の横に素早く隠れ、さりちゃんが通り過ぎるのを待った。
目にはたっぷり涙を浮かべていた。
僕はその瞬間を見逃さなかった。
声を掛けるわけにはいかない。
やりきれない思いを閉じこめ、またさりちゃんの後ろを歩いた。
まっすぐ駅まで向かう道のり。
前を歩くさりちゃんは、
スカウトの男や、ナンパしようとしてくる男を見事なシカトっぷりを見せ無視ひ続けた。
僕は声を掛けた男を睨み付け、その場を通り抜ける。