君想い【完】


祥吾は集中治療室から普通の個室に戻っていた。

人工呼吸器から聞こえる、機械音が祥吾が自分で息を出来ない現実を目の当たりにする。


「祥吾ー!元気か?お前格好いいな!お前は男だよ!」


涙を流しながらも、笑顔を見せいつものように陽気にトシが言う。

祥吾の肩を叩いて、何度も同じ事を言う。


「祥吾くん、覚えてる?負けず嫌いなゆかが、運動会でいつも1位になれなくて、最後くらい1位になりたい。って言ったら毎日ゆかが走るの見てくれたよね。早く走る方法とか2人でいっぱい考えたよね。覚えてる?」


ゆかは震えた手を背中を隠し、目いっぱいに貯めた涙をこぼさないように、少し上を向きながら思い出話をする。


「小さい頃から祥吾くんが大好きだった。あ、今でも大好きだよ!でも純の次だけど。」


ドンマイ、祥吾!
なんてトシが言うと笑みがこぼれた。


「祥吾ー。あんた毎日けばいだの、派手すぎるだの散々文句言ってさあ。祥吾の文句が早く聞きたいんだけど。あんたが静かだと逆に恐ろしいわ。怖い!」


香代が祥吾の頬をつねる。
祥吾の体温を直に感じて香代は涙を流す。


「あんた死んでないんでしょ!意地でもいいから目覚ましてよ!こんなに、こんなに温かいのに。」


泣き崩れる香代をトシが抱きかかえる。


今日は笑って祥吾と話そう、
なんてどう頑張っても昨日の今日じゃ無理な話だ。


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