君想い【完】
「なんで監禁なんてされたの?」
「あたしのためかな。交換条件。」
僕たちは首を傾げた。
麗は立ち上がりアルバムを本棚に戻す。
「東龍からしたら、大きな勢力を持ってるうちは邪魔な存在でしょ?だからおじいちゃんを消したの。でもパパが跡をすぐに継いだから、うちはそれほど影響はなかったの。」
初めて聞くリアルな裏関係の話に興味津々で、僕たちは黙って聞き入っていた。
「あたしを拉致?誘拐しようとしたのよね。あいつら本当にバカなの。そういう事しか考えられないのよ。それを知った馨ちゃんは、パパと相談してお金で解決するために結構な額を持って東龍の事務所に行ったの。でも帰って来なかった。」
涙を溜めて話す麗を初めて女の子らしいと思った。
「馨ちゃんがあたしの許嫁っていうのは有名な話。パパを継ぐのは頭もキレるし、武道の段をいくつも持つ馨ちゃんだったの。たぶん狙いは最初からあたしなんかじゃなくて馨ちゃんだったのよ。きっと。」
「でも殺されてないんでしょ?普通なら消しちゃうよね。」
「馨ちゃんを上手く使ってるのよ。うちの情報を聞いたり、他の所との抗争に使ったり。」
麗のリアルな話を聞いて、ゆかと香代は震えていた。
きっと2人はもし稲葉馨という人物が自分の愛しい人だったら、と想像していたのだろう。
「だから潰したいの。むしろ佐倉を殺したいわ。」
「佐倉って佐倉龍司?」
「あいつのお父さん。頭ではないけど、統括なの。動かしてるのはほとんどあいつよ。分かりやすくいえば、うちで言うあたしの立場。昔の馨ちゃんの立場。」
麗の説明が上手くて納得が出来た。
稲葉馨との結婚だけで、それ以外に家の仕事と関わるつもりは麗にはなかったらしい。
むしろ小さい頃から家の事情を嫌い、この家に生まれたことを憎んでいたと言う。