バレンティヌスの悪戯
今日は、2月14日。

世間一般でいう、バレンタインデーってやつで。

女の子がすきな男の人に、チョコレートを渡して想いを伝える日。



「ね、ねぇ、速見くん。とりあえず、離し……」

「やだ」



私の精一杯の言葉を、速見くんはあっさり一蹴した。

しかも、私を抱きしめる腕にさらに力を込めるもんだから。またいっそう、顔に熱が集まる。


……ねぇ、わかんないよ、速見くん。

どうして速見くんは今、私のことを抱きしめてるの?

どうして速見くんは今、そんなに余裕がない顔をしているの?

私が知ってる速見くんは、いつも余裕綽々で、人をからかうのが好きで。



「……委員長、誰かにチョコ渡すつもりで、この教室にいたの?」

「……え、えと……」

「やだ、行かせない。他の男に、委員長のチョコなんて渡させない」

「……ッ、」



いっつも私に意地悪してきて、顔に似合わず腹黒で。

……だけど、だけど。

本当は、彼がいつもまわりを気遣っているやさしい人だってことを、ふとしたときに感じて。

私が数学の教科書を忘れて困っていたとき、なぜか自分が忘れたことにして先生に怒られて、その教科書をさりげなく貸してくれたのは彼。

学校祭の自由時間になぜか一般客の男の人にしつこく絡まれていた私を、ヒーローみたいに助けてくれたのも彼。


ねぇ、速見くん。そんなふうにしてもらって、すきにならない方が、おかしいんだよ。

こんなふうに、地味で目立たない私だけど。バレンタインくらい、勇気を出してチョコを渡したいって、思ったんだよ。
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