毒チョコ
毒チョコ
=毒チョコ=
「山下さん!」
山下ケイヤは、思わぬ相手に思わぬ場所で呼び止められた。
そこは、この春、ケイヤがアユカと結婚式を挙げる予定のホテルの入り口だった。この日も式の打ち合わせだった。
呼び止めた相手は、きっぱりと別れたはずのマミだった。
マミとはアユカと出会うまで、5年ほど付き合っていた。二人はお互いに将来を意識していたが、ケイヤは昨年の夏、友人同士で出かけた海でアユカと出会った。
アユカの小麦色に焼けた笑顔と、その抜群のスタイルに一発でまいってしまった。
ケイヤの描いていたマミとの将来は、そのままアユカとの将来へと差し替えられていった。
「マミ・・・」
ケイヤは、名前を小さく呼ぶのがやっとだった。どうして?もう、終わってるはずだろう?今更なんだよ?口には出せない、そんな言葉がいくつも浮かんだ。
「式の打ち合わせでしょ?」
平然と、明るくマミは云った。
「そう、マミは?」
「ちょっと、これを渡したくって、会社の外で待ってったんだけど、あなた急いでたから声をかけられなくて・・・ここまでついて来ちゃった」
「これ?」
「うん、明日はバレンタインでしょ、だからチョコレート!しかもお手製の毒入りよ」
マミは、チョコレートがいっぱいに詰まった大きな手提げの紙袋を差し出した。
「毒入りチョコかぁ・・・」
ケイヤは、苦笑いを浮かべながら受け取った。
「チョコレートが大好きになって、やめられなくなっちゃう猛毒!」
マミはそう云って、笑ってみせた。しかし目は笑っていなかった、ケイヤの瞳ををまっすぐ凝視していた。
「そういう猛毒だったら、ありがとう・・・俺、急いでるから、ゴメン」
「うん、わかってる。アユカさんにもよろしく、よかったら猛毒入りチョコを二人で食べてね」
マミは、ケイヤの背中がホテルの中へと消えて見えなくなるまで、見送った。
ホテルで予定通り式の打ち合わせを終えた後、アユカとケイヤはホテル内のレストランで夕食をとっていた。
「ねぇ、ケイヤ。その紙袋って何?」
アユカが訊いてきた。
「あぁ、これはさ、猛毒入りのチョコらしい!」
「えぇ?毒入りって・・・」
「もちろん、冗談だろ、多分・・・マミがくれたんだ、お幸せに!ってさ」
「猛毒入りって、彼女が云ったの?」
「なんでも、チョコレートが大好きになりすぎて、やめられなくなっちゃう猛毒入りらしい・・・」
「だったら、それわたしが毒味してあげる。ケイヤには、明日、わたしが特性のスペシャルチョコをプレゼントするからね」
その年の春、ケイヤとアユカは、無事結婚式を終えた。
そして、新居で暮らし始めて一年後・・・
「わたしやっぱり、そろそろダイエットしないとまずいかしら?」
近頃、帰りの遅くなったケイヤを待ちながらアユカがひとりごとをつぶやいた。
アユカは、この一年で15キロ以上・・・体重が増え、寸胴型の体型へと変わってしまっていた。甘いものがやめられず、気づけば口に運んでしまう習慣が身についてしまっているせいだ。
今も、目の前のテーブルにはチョコや和菓子が山積みになっている。
「ねぇ、大丈夫?アユカさん私たちのこと、ぜんぜん気づいてないの?」
マミは、ホテルの出口からずっとケイヤの腕を抱いていた。
「どうだろう・・・それ以前に、アユカは自分の体型が僕の許容範囲をとっくにオーバーしていることに気づくべきだったんだと思うけどな・・・」
「山下さん!」
山下ケイヤは、思わぬ相手に思わぬ場所で呼び止められた。
そこは、この春、ケイヤがアユカと結婚式を挙げる予定のホテルの入り口だった。この日も式の打ち合わせだった。
呼び止めた相手は、きっぱりと別れたはずのマミだった。
マミとはアユカと出会うまで、5年ほど付き合っていた。二人はお互いに将来を意識していたが、ケイヤは昨年の夏、友人同士で出かけた海でアユカと出会った。
アユカの小麦色に焼けた笑顔と、その抜群のスタイルに一発でまいってしまった。
ケイヤの描いていたマミとの将来は、そのままアユカとの将来へと差し替えられていった。
「マミ・・・」
ケイヤは、名前を小さく呼ぶのがやっとだった。どうして?もう、終わってるはずだろう?今更なんだよ?口には出せない、そんな言葉がいくつも浮かんだ。
「式の打ち合わせでしょ?」
平然と、明るくマミは云った。
「そう、マミは?」
「ちょっと、これを渡したくって、会社の外で待ってったんだけど、あなた急いでたから声をかけられなくて・・・ここまでついて来ちゃった」
「これ?」
「うん、明日はバレンタインでしょ、だからチョコレート!しかもお手製の毒入りよ」
マミは、チョコレートがいっぱいに詰まった大きな手提げの紙袋を差し出した。
「毒入りチョコかぁ・・・」
ケイヤは、苦笑いを浮かべながら受け取った。
「チョコレートが大好きになって、やめられなくなっちゃう猛毒!」
マミはそう云って、笑ってみせた。しかし目は笑っていなかった、ケイヤの瞳ををまっすぐ凝視していた。
「そういう猛毒だったら、ありがとう・・・俺、急いでるから、ゴメン」
「うん、わかってる。アユカさんにもよろしく、よかったら猛毒入りチョコを二人で食べてね」
マミは、ケイヤの背中がホテルの中へと消えて見えなくなるまで、見送った。
ホテルで予定通り式の打ち合わせを終えた後、アユカとケイヤはホテル内のレストランで夕食をとっていた。
「ねぇ、ケイヤ。その紙袋って何?」
アユカが訊いてきた。
「あぁ、これはさ、猛毒入りのチョコらしい!」
「えぇ?毒入りって・・・」
「もちろん、冗談だろ、多分・・・マミがくれたんだ、お幸せに!ってさ」
「猛毒入りって、彼女が云ったの?」
「なんでも、チョコレートが大好きになりすぎて、やめられなくなっちゃう猛毒入りらしい・・・」
「だったら、それわたしが毒味してあげる。ケイヤには、明日、わたしが特性のスペシャルチョコをプレゼントするからね」
その年の春、ケイヤとアユカは、無事結婚式を終えた。
そして、新居で暮らし始めて一年後・・・
「わたしやっぱり、そろそろダイエットしないとまずいかしら?」
近頃、帰りの遅くなったケイヤを待ちながらアユカがひとりごとをつぶやいた。
アユカは、この一年で15キロ以上・・・体重が増え、寸胴型の体型へと変わってしまっていた。甘いものがやめられず、気づけば口に運んでしまう習慣が身についてしまっているせいだ。
今も、目の前のテーブルにはチョコや和菓子が山積みになっている。
「ねぇ、大丈夫?アユカさん私たちのこと、ぜんぜん気づいてないの?」
マミは、ホテルの出口からずっとケイヤの腕を抱いていた。
「どうだろう・・・それ以前に、アユカは自分の体型が僕の許容範囲をとっくにオーバーしていることに気づくべきだったんだと思うけどな・・・」