*花は彼に恋をする*【完】
「…うっ…っ…ぐすっ。」
普段人通りが少ない廊下まで来ると
壁を前に私は泣いた。
今日は先輩社員の言葉と
周囲のクスクス笑いに何だか傷ついた。
『生意気』『可愛げがない』『欠如』と
人前で言われた悔しさも痛い。
でも、その反面
あの黒瀬課長代理が
皆の前で私を庇うような事を
言ってくれた。
今まで見た事がない形相は
恐かったけど…何だか嬉しかった。
色んな想いが入り混じって
溢れる涙をハンカチで押さえていた時
…….コツコツコツ。
誰かの靴音がこちらに近づいて来た。
その靴音は私の後ろで止まった。
「…野田。」
私を呼ぶ声に振り向いた。
そこに立っていたのは
「黒瀬…課長…代理?」
……黒瀬課長代理だった。
私を見下ろした、長身の黒瀬課長代理。
漆黒の瞳が私の泣き顔を捉えた。
切なげな顔をして私を見つめながら
「…野田。
本当はこうして君は
あいつらの言葉に傷つく度に
陰で泣いてたんだな…。
今まで…辛い想いしていたんだな。
……大変な想いをさせてしまったな。」
そう言って
課長代理は手を伸ばすと
私の頭を優しく撫でた。
……えっ!?
今までそんな事を言われた事も
頭を撫でられた事もないから
課長代理のその言動に
戸惑いと驚きが広がると共に
私の胸がドクンドクンと高鳴った。
再び黒瀬課長代理は
「…野田。」
と、私の名前を呼ぶと
漆黒の瞳で私の顔を覗き込んだ。