*花は彼に恋をする*【完】
息ってどうやって吸えばいい?
固まった手足は
どうやって動かせばいい?
そう考えてしまうほど
私の全身は固まってしまっていた。
「……嘘…でしょ?」
呟く声は虚しく宙を舞う。
ずっと憧れ続け、抱き続けた恋心。
黒瀬課長が私を庇ってくれて
助けてくれた優しさが
仕事だからだって事はわかっていた。
公私混同はいけないとわかっていた。
10歳も年上のあの人の瞳に
私の存在なんて最初から
少しも映っていないってわかっていた。
でも、少しだけでも
三橋が話していた噂が
……私は嘘だと信じたかった。
しかし、本人が認めた以上は
噂じゃなくて事実。
私の願いは叶う事がなかった。
失恋確定だと宣告された。
「……うっ、…っ…。」
俯く目から涙がポタポタ落ちた。
もう、黒瀬課長の心は私じゃなく
その見合い相手のモノ…。
私はもう何でもない、ただの元部下。
二度と近づけない…。
もう好きになってはいけない…。
私はこの日を境に
黒瀬課長への恋心を封印させた。
無理やり幕を閉じた。
しかし、押し込めたはずの
私のこの想いはそう簡単に
風化してくれなかった。