*花は彼に恋をする*【完】
他愛ない会話をしていた私達。
やがて
黒瀬課長は腕時計をチラリと見ると
「…じゃあ…俺行くから。
野田さん、気をつけて帰るんだよ。」
そう言って私に背を向けかけた。
「……。」
さっきまで温かった気持ちが
一気に冷めていくような気がした。
…もう行っちゃうの?
その背中が何だか遠く見える。
…寂しい…行かないで。
名残り惜しい気持ちになった私は
「…ま、待って下さい!!」
もう片方の手で咄嗟に掴んでいた。
「…えっ!?…野田さん?」
いきなり腕を掴まれて驚く彼に
「…あの…宜しかったら
ウチで夕飯食べて行かれませんか?
あの…たくさん買い過ぎて
困っていたので…ご迷惑でなければ
……お願いします!!」
私はついそう言ってしまっていた。
「……。」
黒瀬課長は私を見て固まった。
「…あっ!!」
途端に恥ずかしくなった私は
掴んでいた腕を離すと
「…すいません、私…あの…。」
俯いて慌てて謝った。
すると
「…ありがとう、野田さん。
じゃあ…折角だから
ご馳走になろうかな…。」
…えっ!?
顔を見上げると
優しい眼差しで私を見つめる
黒瀬課長の姿があった。