*花は彼に恋をする*【完】
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どのくらい時間が過ぎたんだろう。
でも、夢のような時間にも
終わりはやってくる。
壁際の棚の上に置いてある
デジタル時計を見た黒瀬課長は
「……野田さん。
長居して申し訳なかった。
そろそろ失礼するよ。」
そう言って立ち上がると
椅子にかけていた
スーツのジャケットを着ると
壁に立てかけていた
ビジネスバッグを手に取った。
『行かないで、帰らないで。』
恋人同士ならそう言えるんだろうけど
私はそんな資格はないから言えない。
だいたいこんな時間すら
奇跡なんだから…。
「…ありがとう。
本当に美味しかったよ。」
「…いいえ、こちらこそ
突然すいませんでした。
でも、ありがとうございます。」
玄関に向かう黒瀬課長の
その逞しい背中に向かって
思わず抱きつきたい衝動に
駆られそうな気持ちを抑える。
もっと一緒にいて欲しかったな。
ぼんやりとそう思っていた時
「…野田さん。」
玄関の直前で
黒瀬課長が立ち止まり
私の方を振り返った。