*花は彼に恋をする*【完】

「…おい!!待てよ!!」

後ろから黒瀬課長の声が聞こえた。

私は振り返らずに逃げる。

あの場所にいたくない。

あの女性がお見合い相手で

恋人だと紹介されたくない。


でも、こんな日に限って

履いてきたヒールの靴が走りにくく

体育会系だった黒瀬課長に

叶うはずはない。


「…待てよ!!」


あっと言う間に追いつかれて

腕を掴まれた。


「…嫌!!離して下さい!!」


走って息があがる中

夢中で抵抗した。

「…離さない!!」

肩を上下させて

荒く息を吐く彼の額には

うっすらと汗が滲む。

それでも私は

「…離して下さい!!
放っておいて下さい!!
さっきの彼女さんの所へ
戻られたらいいじゃないですか!!
待ってらっしゃるんじゃ
ないんですか!?」

私の目からは涙が溢れる。

通りすがりの人達が

私達をジロジロ見ていくけど

もうどうでも良くなっていた。

すると

「…一体さっきから
君は何を言ってるんだ!?
お見合いとか、恋人とか
誰の事を言ってるんだ!?」

黒瀬課長が私をジッと見ながら

声を張り上げた。




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