彼となら、   熱くなれる
「ダメだ。今の俺は不安定だ。珠良の想いには応えたい。だが一方でおかしいと思う自分がいる。俺はおまえほど強くない。万一間違って妊娠でもしてみろ。悪夢が襲ってくる。俺はそこまで狂いたくないし、覚悟もできない。おまえはこれから起こるだろうことに関心ないのか、今愛し合えればそれでいいのか?」

「先のことなんて何もわからないわ。誰にもわからないのに未来を恐れることに何か意味があるの?」

俺は妹の目を見つめた。

ダメだ。

今は何を言っても通じない。

俺には一つだけ確信できることがあった。

それは自分で自分の妹を地獄へ連れ去ってしまったことだ。

もう後戻りはできない。

今夜俺が珠良を抱いたという過去は消せないのだから。

「わかった。おまえの気持ちはわかった。しばらく考えさせてくれ。今はとにかく寝よう。明日も仕事だろ?」

「うん、昨日診た子猫のことだけど、治らない病気だった。私は最後まで精一杯診てあげることしかできないけれど、それが私の役目だから。私にもできることとできないことがあるんだと、いつもクリニックで思い知らされるわ。」

「獣医もしんどいんだな、わかるよ。」

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