雪恋ふ花 -Snow Drop-
旅館と別棟の蔵になった喫茶店へ入る。
中は広くはないが、木目調の落ち着いた空間になっていた。
ひきたての、香り豊かなコーヒーを味わった後、結局、二人は何も話せないまま、スキー場へ向かった。
滑り始めると、しゃべりながらというわけにもいかず、二人はスキーに集中した。
12時過ぎまで滑って、ゲレンデの外にある有名な蕎麦屋に行くことにした。
行列にしばらく並んで、ガイドブックにのる有名な蕎麦を堪能した。
それから、お土産店をぷらぷらと見て、宿に帰る。
荷造りを終えると、車で5分もかからない所にある温泉施設へ向かう。
お昼間なので空いていた。
しばらく畳の広間でくつろいで、二人は車に乗り込んだ。
春人がつけたラジオから、静かな音楽が流れていた。
「春さん……」
「ん?」
「あの……」
「うん」
珠が何を言おうとしているのか、春人はかたずをのんで待っていた。