雪恋ふ花 -Snow Drop-
「あのね、昨日のことなんだけど……」
「うん」
また、重たい沈黙が流れる。
「えっと……自分でもよくわからないの……」
「うん」
「その……気がついたら、春さんにキスしてたの……」
「うん」
「賢ちゃんと別れたばかりなのに、春さんとなんて……」
「うん、わかるよ」
珠は後悔している。
春人は珠の言葉に、かすかなさびしさを感じるとともに、共感する部分もあった。
「だから、あまり深刻に考えないでほしいの……」
「いや、その……ちゃんとしたつもりだけど、何かあったら、絶対に相談してほしい」
どこまでも誠実な春人の言葉に、珠は温かい気持ちになったが、それには答えず、質問を重ねた。
「春さんは?」
「え?」
質問の意味がわからず、春人は聞き返した。
「春さんの気持ちは?」
「えっと僕は……珠ちゃんの意思を尊重したいんだ」
「そういうことじゃなくて……」
珠がじっと見つめる。
「旅先だからでも、さみしかったからでも、たまたまそこにいたからでも、なんでもいいよ。
理由や言い訳が必要なら。
でも、僕はあの瞬間、ただ純粋に珠ちゃんが愛しいと思ったんだ。
これまで、好きでもない子と、その場のムードだけでしたことはないよ」
珠が息をのむのがわかった。
「あ、こういうの、重たいかな?」
「ううん、違うの。春さんはやっぱり、どこまでも愛情にあふれてる人なんだなって……」
珠の最後の方の言葉には涙がにじんでいた。
「うわ、ちょっと待って。なんで、泣くの?」
春人は急いで車を路肩に寄せると、珠の方を向いた。
「ごめんなさい……」