雪恋ふ花 -Snow Drop-
「いや、なにがごめんなさいなの?」
「私ずっと、春さんに甘えすぎてたと思って」
「そんなことないよ」
春人が膝の上でぎゅっと握りしめた珠の手を上から優しく包む。
「どうした?」
「私、ずるいよね?」
「どういう意味?」
「賢ちゃんに失恋して、春さんの気持ちを利用して。それなのに、まだ迷ってるなんて」
「そんなことないよ」
「まだ、春さんについていく勇気が出ないの」
「焦らずゆっくり考えてくれたらいいよ。僕はいつまででも待ってるから」
また、珠がポタポタと涙を落とす。
「こっち、おいで」
春人が助手席で靴を脱いで、膝を抱えて丸まっている珠を抱き寄せる。
「だめだよ、春さん。そんなに優しいことばっかり言ったら」
「いいの、僕は珠ちゃんをあまやかしたいんだ。それに、利用されたなんて思ってないから安心して。むしろ、僕の方が弱みにつけこんだっていうか……」
「ありがと」
「え?」
「やっぱり、春さん、大好き」
「いや、そんなことストレートに言われると、かなり照れるんだけど……」
春人がぽりぽりと頭をかいた。
「心の整理がつくまで、待っててもらえますか? あんまり長くは待たせないって約束するから」
「うん、わかった」
やっと二人は、元のように自然に微笑みかわせるようになっていた。
春人は抱きしめた珠の頭のてっぺんに、そっとキスを落とした。