雪恋ふ花 -Snow Drop-

四月に入り、珠は父の学習塾を手伝う毎日だった。

生徒は各学年数人しかおらず、それぞれ、宿題のワークブックを持参していた。
進学校を目指す大手の塾とは違って、復習がメインの塾なので、生徒もどこかリラックスしている。

生徒の中にはここでしか勉強しない子も多く、学校ではわからないまま授業が先に進んでつまずいた部分をていねいに説明していく。
これまで解けなかった問題ができるようになった時の、子ども達のうれしそうな顔にやりがいを感じていた。


午前のクラスを終えて、珠は教室を掃除していた。


――― ガラガラガラ


入り口の引き戸が開いた音に珠が振り返る。


「どうしたの? 忘れ物?」


そう言ってから、扉の横に立つ人物を見て、珠はぽかりと口を開けた。


そこに立っていたのは、春人だった。




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