雪恋ふ花 -Snow Drop-
「春さん、お待たせ」
珠が勢いよく飛び込んできて、目を丸くする。
「お母さん! 何してるの?」
「何してるのじゃ、ありませんよ。お客様をほったらかして、あなたこそ、何してたの?」
「春さんに渡すものがあって。お母さんは、もういいの。用事がすんだなら、帰って」
珠が志魔を扉の方へ押しやる。
「はいはい、わかりましたよ。後は若いお二人で、よね?」
「もう、お母さん、何言ってるの?」
志磨を追い出して、珠は真っ赤になっている。
「ああ、ごめん。つい、言っちゃったんだ。交際を申し込みに来たって」
「もう春さんってば。それでさっきの。母はうるさいから、しばらく内緒にするつもりだったのに、どうするの? 返事もしてないのに、母親と先に仲良くなるとか、おかしいでしょ?」
「そんなこと言われてもさ、逃げ出すわけにもいかないし」
春人が首をすくめる。
「友達とか、適当に言ってくれたらいいのに」
珠はまだふくれている。
「それは、ごめん、悪かったよ。でも、お母さんに嘘はつきたくなかったんだ」
春人に自分の母親のことを「お母さん」と呼ばれると、いろいろ考えてしまって、よけいに珠は照れていた。
そこで、珠は持ってきた四角い包みを春人に渡した。
「あけてもいい?」
春人がうれしそうに聞いた。
「うん」
春人が包みをとくと、それは一冊の絵本だった。