雪恋ふ花 -Snow Drop-
「ふゆのようせい ジャック・フロスト?」
春人が絵本のタイトルを読みあげた。
「ねえ、読んでみて」
「うん」
数分後、春人は読み終わった絵本をパタンと閉じた。
「この絵本を見つけた時、春さんみたいだと思ったの」
「この妖精が?」
「そう、ジャック・フロストが」
「確か、霜男だっけ?」
「春になったら、消えてしまうのは困るけど、でも真冬みたいに凍りついていた私の心を溶かしてくれたから」
「スノードロップも出てくるんだね」
「そうなの! それに、雪のキラキラした感じが本当にきれいでしょ? 切り絵の水色と白のコントラストも素敵だし」
「うん、何度も読み返したくなる」
珠はクスッと笑ってつけ加えた。
「あの、春さんに初めて会った日の雪景色みたいだと思って」
「うん」
珠にとってあの日は、彼氏と友達に置いてきぼりにされて、しかも雪に埋もれていた悲惨な思い出の日ではないことが、春人には意外だった。
この絵本の主人公みたいに雪遊びをした楽しいキラキラした思い出なのだということが。
「春さん……」
「ん?」
「私……」
珠が言葉を探すように、ゆっくりと言った。
「自分のこと、ちゃんとしてから言おうと思ってたんだけど、もう我慢できないから、今言うことにする」
「なに?」
「私とつきあってください!」