雪恋ふ花 -Snow Drop-
林道を抜けると、見慣れたゲレンデの景色が戻ってきた。
そうか、朝はこのリフトに乗ったんだと、珠は今頃になってゲレンデの位置関係が把握できた。
「さて、ここまで来れば、もう大丈夫。ここも初級者コースだから安心して滑るといい」
「はい」
「ほら、正面を見て」
春人がストックで正面の風景を指す。
「うわぁ!」
珠が思わず歓声を上げる。
ゲレンデの正面には真っ白な雪をいただいた連峰がそびえていた。
「この景色に会いたくて、毎年来るんだ。絶景を見ながら滑るなんて、最高だろ?」
「ほんとに」
「焦ることないから、ゆっくり景色を楽しみながら滑っておいで」
春人の言葉はどこまでも愛情にあふれている。
ほんの数時間前に知り合ったばかりの、お荷物でしかないこんな自分に対してまで。