雪恋ふ花 -Snow Drop-
途中、何度か転んだが、春人のおかげで落ち着いて、滑ることができた。
転んでも、元の態勢に立て直すのが早くなった。
下まで滑り降りると、春人がにっこり微笑んだ。
「さて、帰るか?」
「あの……」
この時になって、珠は宿の場所がはっきり思い出せないことに気がついた。
名前以外、何も覚えていない。
「どうした?」
「宿の場所がわからなくて……」
「ほんとに、迷子だな。山だから、遭難か……」
春人がぽつりとつぶやく。
「え?」
「この道をまっすぐ行ったところの、蔵のある旅館だろ?」
「はい、たぶん……」
「送ってやるから、安心しろ」
「え? 宿の場所、わかるんですか?」
「ああ」
春人はさっさと歩き始めたが、珠がスキー板をバラバラと落とすと慌てて戻ってきた。
「ほら、貸して。こうやって、きっちり重ねて、この辺りをギュッと持つ。こう向きにしたら、ばらけないからな」
「ありがとう」
途中、レンタル店に寄って板を返す間も、春人は何も言わずにつき合ってくれた。
どこまでも親切な人だ。