雪恋ふ花 -Snow Drop-
「もうちょっと、ねる」
そうつぶやくと、また目を閉じて、春人の胸に顔をうずめる。
「おい、こら。起きてくれ」
体を揺さぶり続けて、ようやく珠が目を覚ます。
「あれ? えっと……」
「ここは俺の家」
それを聞いて、珠がむっくりと起き上がる。
「あの、私……」
「ずっと寝てるから、住所聞けなくて。とりあえず、うちに連れてきたんだ。俺も疲れてたから、隣で寝かせてもらったよ。あ、だけど、端に寝かせたのに勝手に寄ってきたのは、おまえだからな」
春人が慌ててまくし立てると、珠は目をこすりながら言った。
「ごめんなさい、暖かくて気持ち良かったから、つい。あ、あの、送ってもらって、ありがとう。今、朝ですよね?」
「そうだけど、なんか予定とかあった?」
「いえ。私、泊まっちゃったんですね、春さんのとこに」
「ああ」
春人が最寄りの駅名を告げると、珠の家は隣の駅だと言う。
車で送るというのを固辞して、珠は電車で帰ると言い張った。
駅まで送っていく途中、喫茶店でモーニングを食べる。
珠は口数が少なかった。