雪恋ふ花 -Snow Drop-
珠のテーブルへ移動して、興味津々の麗子が話始める。
「初めまして。私、沼田麗子。ハルの会社の同僚。あなたは?」
「初めまして。犬渕珠と言います」
名前を聞いて、やっぱり麗子は笑い出す。
「ごめんなさい」
「いいですよ。慣れてますから。ちなみに、名前の由来は父がそろばん教師だからです」
今度は春人がプッと吹き出す番だった。
「あら、そろばん教師、素敵じゃない」
「違うよ。誰にでも、全く同じ自己紹介するんだなあって、おかしかっただけ」
「ところで、二人はどういうお知り合いなの?」
麗子がズバリ核心をつく。
「春さんに、スキー場で、助けてもらって」
「わお。それで、フォーリンラブ?」
「ばかやろう。何、言ってる。彼女が友達とはぐれて、道に迷ってたから、ちょっと案内しただけだ」
それを聞いて、珠がふんわりと笑った。
「やっぱり、春さんはいい人だな。でも、いいですよ。ほんとのこと言ってくれても」
「え、なになに? ようは、ナンパだったんでしょ?」
「ちがうって、おまえは黙ってろ」
春人と麗子のやりとりは、夫婦漫才みたいだと思いながら、珠が続けた。
「私が雪に埋もれて動けなくて困っているところを、春さんが助けてくれたんです」
「それって、人命救助?」
「いや、そんなんじゃ……」
春人の言葉を遮って、珠が続ける。
「まさに。だって、私、あのまま凍死してたかも」
「オーバーだろ、それは」
「ハルが人助けか。あなた、すっごく貴重な体験したわね」
「え? ハルはね、人と関わるのが苦手なの」
「そうなんですか?」
「会社でも、いっつも一人でいるんだから」