雪恋ふ花 -Snow Drop-
「ここ、よく来るの?」
「年に1回、両親の結婚記念日に、いつも家族で来るんです」
「へえ、素敵なご家族ね。私たちの上司が3月で定年退職されるんだけど、大のワイン好きでね。それで、このお店にしたの」
運ばれてくる料理はどれも絶品だった。
不慣れな客に対しても、店員が親切で、居心地がいい店だった。
フルコースを堪能し、お腹がいっぱいで苦しくなった頃、店員がデザートの用意を始める。
「ここって、好きなケーキを選ばせてくれるのよね」
楽しそうに言う麗子に、珠が言いにくそうに告げた。
「あの、今日はケーキを頼んであって」
しばらくして、店員が押してきたワゴンに乗っていたのは、ろうそくが灯った小さなホールケーキだった。