雪恋ふ花 -Snow Drop-

「わぁ、珠ちゃん、これすごい」


麗子が無邪気な歓声をあげる横で、春人の顔がこわばる。
せめて違っていてくれ。
春人は祈るような気持ちで黙っていた。

けれども、珠が次に言った一言で、春人は悪い予感が的中したことを知る。


「実は今日、私の誕生日なんです」


誕生日に彼女を置き去りにしたのか。
きっと連絡もないまま、1時間も1人で。
どこまで、おとしめたら気がすむんだ。
膝の上でにぎりしめた拳が震えそうになるのを、春人はどうにかおさえていた。


「おめでとう!」

「ありがとう」


珠はにこやかな笑顔で笑っていた。
どうして、こんなひどいことをされてそんなふうに笑っていられる?

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