雪恋ふ花 -Snow Drop-
指定された住所に着くと、春人が珠を抱きかかえ、その後から麗子が鞄を持って着いてきた。
珠の鞄の中から鍵を探して、玄関の扉を開けようとした時、おもむろに中から扉が開いた。
「おい、何時だと思ってる?」
男性の鋭い声がして、麗子が驚いた顔をする。
春人は「しまった」と思ったが、今さら隠れるわけにもいかない。
「こんばんは。珠ちゃんを送ってきました」
麗子がにこやかに言うと、賢が春人を見たとたんに険しい表情を浮かべた。
「また、おまえか。タマに何した?」
「酒飲んで、寝てる」
「こいつ、いつも飲まないのに。無理矢理、飲ましたのか?」
さすがの麗子の顔からも微笑みが消えた。
「今日がなんの日か知ってるのか?」
春人が静かに言った。
「は?」
春人の続きを引き受けたのは、麗子だった。
「珠ちゃんの誕生日よ」
賢がはっと息をのんだ。
こいつ、ほんとに忘れてやがったのか。