雪恋ふ花 -Snow Drop-
夕方、仕事を終えて、春人は途中下車した大きな文具店で、仕事に使うファイルやノートを調達していた。
文具店の入っているファッションモールの前は冬のイルミネーションで華やかな雰囲気に飾られていた。
閉店間際とあって、行き交う人もまばらだ。
立春を過ぎたというのに、夜になるとまだまだ冷え込む。
春人は店の中との温度差に身を震わせながら、駅へ向かっていた。
アーチ型のイルミネーションの一番端に、小柄な女性がポツンと立っていた。
近づくにつれ、それが見慣れた後姿であることに気がついた。
「あ」
「よく、会いますね」
珠が微笑みながら言った。
「お買い物?」
「おまえは?」
「ああ、私は……。そろそろ帰ろうかなと思ってたところ」
「え?」
「イルミネーションがきれいだから、ずっと見てたの」
ふと見下ろした珠の唇が真っ青になっているのに気づき、春人が慌てて立ち止まる。
「おい、どうした? 体調、悪いのか?」
「え?」
珠が不思議そうな顔をする。
「くちびるが、青い」
慌ててこすろうとする珠の手をとって、その冷たさに春人は言葉をなくした。
「ずっと、ここに立っていたんだな」
「え?」
「また、1時間か? こんな寒空に何してる」
「……」
「とにかく、店に入ろう」
そう言いながら、春人は昼間に見た光景を思い出していた。
やっぱり、別れたわけではなかったんだな。