雪恋ふ花 -Snow Drop-
荷物を預け、シートに腰を下ろして、春人が隣を見ると、珠が目を輝かせていた。
「夜行バス、初めて?」
「うん。なんかワクワクするね」
見かけだけでなく、本当に子どもみたいだ。
やがて、運転手が簡単な注意事項を説明して、バスが出発する。
もう深夜に近い時間帯なのに、春人は興奮から目が冴えていた。
消灯してからも、しばらくは車内で物音が聞こえていたが、それもやがて静かな寝息に変わっていく。
春人が隣を見ると、珠はすでに夢の中だった。
自分の存在が珠に安心感を与えていることをうれしく思う反面、かすかなさびしさも感じていた。
夜行バスのしんどいところは、体を伸ばせないことにある。
数時間おきの休憩は眠たくても必ず下車して、体を動かすようにしているが、珠はずっと目覚めなかった。
こんなガヤガヤした中で熟睡するとは、なかなか肝っ玉の座ったやつだなと春人はおかしかった。
体が小さいので、シートの上に膝を抱えるようにして眠っている姿に、またネコを思い出していた。
なんとなく態勢がしんどそうだったので、自分の膝の上に頭をのせてやると、そのまま器用に丸くなって眠ってしまった。