雪恋ふ花 -Snow Drop-
春人はうつらうつらを繰り返し、あまり眠れないままに朝を迎えた。
最後の休憩場所で、珠はやっと起きてきた。
お手洗いを済ませて、春人が缶コーヒーを飲んでいると、珠がなかなか帰ってこない。
女性用トイレが混雑するにしても時間が長すぎて心配になり、春人が探しに行くと、血相を変えて歩き回っている珠を見つけた。
「珠ちゃん」
声をかけると、泣きそうな顔で振り返った。
そして、パタパタと走ってくると、ぽふと抱きつく。
「お父さんじゃないぞ」と言いたいのをこらえて、優しく頭をなでる。
春人は少しどぎまぎしたのを悟られないようにとりつくろった。
「帰り道が、わからなくなっちゃって……」
春人がプッと吹き出す。
「どこでも、迷子になるんだな。この子ネコは」
「もう。ネコじゃないもの」
ふくれた顔もちょっとかわいい。
「ほら」
春人は自然に手を差し出していた。
珠がふわりと微笑んで、その手を取る。
「走るぞ」
集合時間が迫っていたので、バスまで走って帰ると、息を切らしながら、二人で顔を見合わせて微笑んだ。
なんでもない時間が愛おしい、春人はそんな想いにとらわれていた。