雪恋ふ花 -Snow Drop-

背中をぽんぽんとたたいてくれる手が優しくて、珠はいつしか眠りについていた。

「無邪気な顔して、罪作りなやつ」

春人のつぶやきも珠には聞こえていなかった。


2時間ほどして、珠がパチリと目を覚ました。
春人がクククと笑っている。

「どうしたの?」

「かつおぶしの匂いに反応するネコみたいだと思って」

言われている意味がわからず、むくっと起き上がると、近くの席から食べ物のいい匂いが漂ってきた。

「別に、そういうわけじゃ」

「は~い。ご飯の時間ですよ」

春人がふざけている姿を見て、珠は新鮮な驚きだった。
大まじめなだけの人だと思ってたけど、こんな一面もあるんだ。
今度は珠がクスっと笑う番だった。


「どうかした?」

「なんでもない」


春人といると、どうしてこんなにリラックスしていられるんだろう。
相手の顔色ととか機嫌をうかがわなくていいことが、自然体でいられることが、これほど幸せなことだとは思わなかった。
< 79 / 146 >

この作品をシェア

pagetop