雪恋ふ花 -Snow Drop-
バスはほぼ定刻、21時前に到着した。
春人は地下鉄沿線に住んでいたが、途中まで珠にあわせてJRで帰ると言う。
「なあ」
「んー?」
珠はこの旅行ですっかり気心を許した春人に何のかまえもなく答える。
「あのさ、今年中に滑れるようになりたくない?」
「え?」
「パラレル」
「ああ……」
珠はあまりにスキーが楽しくて、春人と一緒に滑るのが楽しくて、本来の目的をすっかり忘れていた。
そもそも、賢ちゃんと一緒に滑るために、パラレルの練習してるんだった。
春人はそれにつきあってくれているだけなのに、それも無理矢理おしつけた手作りチョコの代わりに。
珠はとたんに心がしぼんでいくような気がした。
「えっと……」
今の気持ちをどう表現したらいいのかわからなかった。
パラレルなんてどうでもいいというのは、春人に失礼だし、かと言って滑れるようになりたいというのは、つまり賢と仲直りしたいということで、自分でもどうしたいのかが見えず、なかなか答えが出ない。
「もし良かったら、来週末もどう? 俺は人工スキー場に行くんだけど」
「でも、迷惑じゃ……」
「迷惑だなんて、ちっとも思ってないから、気にするな。それに、嫌だったら、誘わないよ。チョコのお礼はもうすんだしな」
珠は思い切って言った。
「あの……」
「ん?」
「滑れるようになりたい。パラレル」
「うん、わかった」
春人がうれしそうに微笑んだ。
ほんとにスキーが好きだから、だから一人でもたくさんの人を滑れるようにしたいんだ、きっとそうだ。
珠はそう言いきかせて、それならば甘えてみようと思った。