雪恋ふ花 -Snow Drop-
翌週の土曜日、珠はまた明るい顔に戻っていて、春人は内心ほっとしていた。
一生懸命、教えたことをやろうとするが、この日もやっぱり珠は滑れるようになれなかった。
「もう少し、なんだけどな。8割以上、できてるから、この調子でがんばればいいよ」
「あの、来週もお願いしても……」
「あ、悪い。来週はちょっと予定が入ってるんだ」
珠がだったらと言おうとした時、春人が思いがけないことを言った。
「でも、ナイターで良かったらつきあえるけど?」
「え?」
「金曜日はどう? その日なら、午後代休取ってるから」
「あ、私もあいてます」
朝の10時頃から16時まで滑って、17時のバスに乗って帰る。
珠はまるで、スキースクールのバスに乗っているみたいな気分になっていた。
賢は車を持っていなかったから、デートはいつも公共交通機関を使っていた。
だから、電車とバスを乗り継いで行くことに全く抵抗はなかった。
けれど、長野まで一人で運転して行くような春人が、どうして車で来ないのかと不思議には思っていた。