雪恋ふ花 -Snow Drop-
そのまま20時まで滑り、21時過ぎのバスに乗って山を下りる。
「これ」
バスの中で、春人が小さな包みを差し出した。
「え?」
「ホワイトデーのおかえし」
「いや、だって、おかえしはスキーを教えてもらうことでしょ。もう、十分もらったのに」
「いいから、開けてみて」
珠が包みを開くと、中から出てきたのは、てのひらサイズの本だった。
「スノードロップの写真集」
「スノードロップ?」
「そう、俺が好きな花なんだ。ちょうど今頃咲くんだよ」
「可憐な花」
「ああ。この花にまつわる伝説も気に入ってるんだ」
「伝説?」
春人が教えてくれた。
昔、万物を創った神が雪にだけ色を与えなかった。
色がほしいと願い出た雪に、神はいろんな色を持っている花たちにわけてもらえと言う。
雪は花たちに頼んだが、どの花もわけてくれなかった。
スノードロップだけが、自分の白い色をわけてくれたから、雪は白くなった。
そして仲良しのスノードロップは雪に守られているから、寒い冬でも花を咲かせることができるのだ。
「へえ。知らなかった。そんな、ロマンチックな伝説があったなんて」
「花言葉は、”まさかの時の友”と”希望”なんだ。だから、珠ちゃんにプレゼントしたくて」
「すてきな贈り物、ありがとう」