雪恋ふ花 -Snow Drop-
「あのスキー場で助けてもらった時から、もう惹かれてたんだろ? あいつに」
賢の想いもよらない追及に、珠は言葉をなくした。
気づかないふりをしていたけれど、もう自分の気持ちを偽ることはできなかった。
「だったら、どうして、すぐに言わなかったの?」
「悔しかったのかもな。4年間のつきあいが、たった1日で塗り替えられてしまうことが」
「誕生日も、バレンタインもすっぽかして、ひどいよ」
「おまえの心が、俺にはないことがわかってたからな」
珠はその場にへたりこんだ。
自分はずっと被害者だと思っていた。
あの日、スキー場で置き去りにされてからずっと。
でも、違ってたんだ。
「スキー場で一人にしたことは謝る。試したんだと思う、無意識に。行かないでって、言ってくれるんじゃないかって」
「え……」
「おまえ、いつも俺の言いなりだったから。気持ち、見えなくて……」
「一本滑って、待ってたよ。リフト乗り場で。でも、おまえは来なかったんだ」
「行こうとしたけど、行けなかったんだよ。雪に埋もれてたから」
珠は思わず叫んでいた。
そうだったのか。
あの時、泣いてすがれば良かったんだ。
こんな所に置き去りにしないで、一人にしないで、あなただけが頼りなんだと。
賢も珠がそんな危ない目に遭っていたことを初めて知った。
珠が春人を選んで、来なかったわけではなかったことを。