雪恋ふ花 -Snow Drop-

春人が玄関の扉を閉めたとたん、珠は大きな声で泣きじゃくった。


「珠ちゃん……」


春人が何も言わずに、背中をぽんぽんと優しくたたいて、なだめてくれる。
しばらく玄関でそうしていたが、落ち着いた頃をみはからって、春人に抱え上げられた。

そのまま春人はリビングのソファーに腰を下ろすと、そっと珠のコートを脱がせてくれた。
春人の膝の上に抱かれた状態で、珠は優しく背中をなでてもらっていた。


「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだよ」


春人に頭をなでられて、また子ども扱いしてると思ったが、それでも今は、春人にそうされることが心地よかった。


「いいんだよ。何も話さなくても。ずっと、こうしてるからね」


春人の腕はどうして、こんなにも優しいのだろう。
そんなことを考えていると、また涙があふれだす。


「よしよし。いい子だ。泣きたいだけ、泣いたらいい。涙は我慢したら、いけないんだって」


セーターが濡れるのもかまわずに、優しく胸に抱き寄せてくれるあたたかい腕が気持ち良くて、珠はいつしか、泣き疲れてうとうとし始めた。


「ほんとネコみたいだな。すぐ寝ちゃうんだから」

春人が丸くなって眠る珠を抱えて、独り言をつぶやいた。

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