雪恋ふ花 -Snow Drop-
翌朝、春人が目を覚まして、驚いたのは、寝袋の中に珠がいることだった。
いつの間にこんなことになったのか、全く記憶になかった。
自分の腕の中ですやすやと眠る珠の寝顔を見ているうちに、体がよからぬ反応をしそうになる。
慌てて寝袋のチャックをおろすと、珠を落とさないように抱えたまま起き上がった。
「う…ん……」
まだ眠っている珠を寝袋の中に戻し、そのまま洗面所に向かった。
鏡の中に自問自答する。
これから、俺はどうすればいい?
どうふるまうのが、正しい?
休日は適当に食べるので朝食の準備はしていなかったが、ホットケーキミックスがあったのを思い出し、冷蔵庫の卵と牛乳で粉をといた。
1枚目のホットケーキを焼き始めると、珠がソファーの上で身じろぐのが見えた。
「中からチャック、おろして。そしたら、出られるから」
台所からリビングに向かって叫ぶと、珠が寝袋からもごもごと脱出してきた。
「おはよう。やっぱり、ネコだ」
「え?」
「タマは、臭覚がネコなみなんだな、きっと」
春人がそう言ってクスクスと笑い出す。
「ちがうよ。それに今、ネコみたいに呼んだでしょ」
ふくれて見せて、珠はこんなふうに普通に会話していることに驚いた。