追憶乃記憶
「お待たせ致しました、聖女様。」
ドレスの裾をつまみ貴族風の挨拶をしてみれば、姉様はころころと鈴を鳴らすように笑った。
「やぁね、マリア。いつも見たく姉様、でいいのよ?」
緊急時だということを把握しているのかいないのか、正装に着替えた姉様は緩やかに微笑んだ。
そういう訳にはいかないということが分かっていないのだろうか。
姉様の玉座、礼拝堂の中央に位置する銀の腰掛。
その右には騎士団長、ラグナ様が腰の刀に手を添えたまま泰然と立っている。
姉様を挟み込むようにして、玉座の左に立つとよく分かる。
礼拝堂に集結した王都の巫女たちの緊張が空気を張りつめさせている。
「聖女様…ご指示を」
玉座近くに跪いていた姉様より少し年上くらいだろうか、背の高い巫女が短くそう切り出した。
きっと姉様は気づいていないけれど。
彼女の指先は、小刻みに震えていた。
姉様は困ったように眉を顰めてこちらを見上げる。
「ねぇ、マリア…」
作戦を決めるのも、指示を出すのも、実際に行動に移すのも、すべて私だ。
昔は、分かってはいても納得がいかないこともあった。
危険なことも、責任も、全てが私に押し付けられている事が、こういう時に浮き彫りになる。
「おい、マリア。」
アレクが此方をつつき、小声で問いかけてくる。
「分かってる。」
アレクが何を言おうとしたかも分かっている。
深く深呼吸をして、一歩足を踏み出した。