追憶乃記憶
「聞け!王都の巫女!」
声を張り、朗々と語りだす。今回の作戦を。
口調を『巫女姫』のものに改め、私が私でないように振る舞う。
『聖女』の補佐的役割にあたる『巫女姫』。
私が巫女姫に選ばれたのは、引き取られてすぐのことだった。
それ以来自分を偽ることで、その立場をやり遂げてきた。その癖がいまだに抜けない。
―知っているのは、アレクだけ。
「顔を上げろ!俯いたまま悪魔と対峙できるというのか!」
礼拝堂中に響き渡る声。
「怯えるな、巫女たち!前を見つめろ!誰が居られるっ、答えよ!」
恐怖に震えていた幼い巫女が、声に弾かれたようにこちらを見上げた。
それに釣られるようにちらほらと顔を上げるものが出てくる。
「今までにないこの事態だ…震えるなとは言わない。逃げるなとも、言えない。」
ピクリ、とアレクが動いたのが視界の端に映った。
ラグナ様も、普段の無表情を少しだけ驚きの色に染めた。
「けれど!私たちが立ち向かわなければ、王都はどうなるか!自らの心に問いかけてみろ!」
「立て、巫女!」
唐突にアレクが声を張った。
びくりと肩が跳ねそうになるのを必死に押さえつけ、アレクを睨みつける。
「貴様らの隣に何が居る!俺たちが…精霊たちが、いる!」
慣れないことをしているからか、口調に乱れが生じている。
でも、まぁ…言いたいことは、理解できた。
だからこそ、それを強調するかのようにアレクの言葉を続けた。
「一人ではないのだ!」
「足を上げろ!」
「「同志よ、巫女よ!共に立て!」」
それは鼓舞として、絶大な効果を発揮したようだ。
震えるものは一人もいない。
逃げるものも、一人もいない。
誰もが決意を目に宿らせ、自身の契約の紋章にそっと手を触れる。
「私と共に進む、先遣隊はいるか。」
先程までの声の張りは出さない。それでも声は届いていた。
先遣隊なんて、一番危険な役割だというのに。
「私が、参ります。」
「わたくしも先遣隊として!」
「お供いたします、巫女姫。」
「マリアンヌ様!私も先遣隊に!」
次々に手が、声が上がる。流石に全員というわけではなかったが、申し分ない人数が志願してくれた。
「…ありがとう、誇り高き巫女たち。」
思わず微笑が零れた。こんな場面だというのに、不謹慎だ。
でも、それでも口元の緩みは抑えられそうになかった。
大まかな作戦をラグナ様に伝え、騎士たちを配置してもらう。
礼拝堂内の残りの巫女の指示も逐一姉様に伝えて動かしてもらうことにし、すぐに行動を開始した。