追憶乃記憶
「で、どーすんだ巫女姫サマ?」
にやにやと面白そうにアレクが此方を見下ろしてくる。
今私たちが居るのは、王都と近郊の街を繋ぐ舗装された道だ。
馬車や人、馬に踏み固められていて、ここにどれだけの人が行き来したのかが見て取れる。
悪魔の姿はまだ見えないが、近くまで来ていることは確かだ。
「…集中を削ぐな、アレクシオ。」
巫女姫の役割のまま、少しだけ気配を和らげる。
アレクシオが何を言いたかったのかを理解したからだ。
私が気を張っていれば、それは先遣隊にも伝播する。
気負いすぎだと、言いたかったのだろう。
「あぁ。…死ぬなよ、マリア。」
ふとした時に垣間見せる優しさは、私の為なのだろうか。
そんなことを考えて、頭を振る。そんなことあるはずがない、と。
アレクシオは母様が命を賭して私と契約するように仕向けた精霊であり…つまるところ、アレクシオが私と契約しに来たのは私の力ではない。
そうでなければ、『四大精霊神』とも名高い風の精霊がわざわざ小娘となぞ契約はしなかっただろう。
私の為では、ないのだ。
そうだ、どうせ私が死んだところで…――
「来たぞ、マリア!」
アレクシオの怒号が周囲に響き、先遣隊の皆の緊張が張りつめた。
風の音すらが消えたその空間に、土を踏みしめる音が小さく鳴った。
―ザリッ
――ザッザリッ
土煙が此方に向ってくるのが視認できる。
もう考え事なんてしていられない。