追憶乃記憶
御話乃始
天井まで接した、見上げる高さの本棚が、広い書架を埋め尽くしている。
唯一光の差す天窓の下に、小さな机と椅子のセットが一つだけ置かれている。
まだ昼だというのにどこか薄暗いこの書架には、私の他には誰も来ない。
この机と椅子も、自分で購入し持ち込んだものだ。
多いとは言えない給金でこのセットを買ったのは、単純に古道具屋で気に入ったからだ。
研究と趣味の両立を兼ねて、私は自分が自由にできる時間の内の殆どをここで過ごしている。
外出も必要がなければしないので、日光に当たる時間が極端に短い私の肌は、元々色素の関係で白かったにも関わらず、現在は病的なまでに青白い。
鍛錬は自室でも出来るからと言い訳をして外に出ない私を、姉や親しい友人、知人たちには何かと理由をつけて外に連れ出す。
好奇の目に晒される外はあまり好きではないし、任務が入ってしまえば嫌でも数日間は自宅に帰れないのだから自分の趣味くらい好きにさせてほしいのだが。
一緒に外に行くのは、そう嫌でもない。
そんなことを考えながら、机の上に書類を広げる。
様々な紋章が描かれた何枚もの紙を見ると、少しだけため息がでる。
散らばったものの殆どが失敗したもので、成功したものもあるにはあるのだが、わずかに成功というだけ。
完成した文様は、一枚だけだ。
自身の戦力を上げる為にも、もっと成功させたいのは山々なのだが。
もう書架の本は何年も前に全て読みつくしていたが、視点を変えたりするまではいかずとも気晴らしにはなるだろうと思い、書架の中を歩く。