追憶乃記憶
悪魔の大群は、見る限り数千体はいるだろうかと思われた。
悪魔が集団行動をすること自体が珍しいのに、こんな光景を見るのは一生に一度だろう。
単純計算で、一人当たり二百体は相手取らなければならないだろう。
雑魚もいれば、貴族クラスも見受けられる。
先遣隊の一人の巫女が一歩、足を下げたのが分かった。
ここまでとは、思っていなかったのだろう。
かくいう私も、思っていなかった。
巫女達の覚悟がいかほどであろうと、今すぐ背を向けるものが居なくてよかったと思うくらいだ。
「あーれぇ、おっかしいな…巫女が、いる。」
先頭に立っていた、貴族格らしい少年がニヤリと口角を釣り上げ舌なめずりをした。
黒髪黒目、黒のシャツに黒のネクタイ。
漆黒で塗りたくったような少年だった。
肌だけは生気を感じられないほど白く、冷たかった。
「…貴様が、首謀者らしいな。悪魔。」
右手に風を纏わせながら、そう尋ねた。
悪魔は気分を害したかのように笑みを引っ込め、鋭い目つきでこちらを見据えた。
「…お前、何?俺に話しかけられる程の力、持ってんの?」
ズッ、と影が深まった気配がする。悪魔が力を解放しようとする予兆だ。
―フッ
短く息を吐き、風を纏わせた右手を静かに悪魔に向って突き出した。
反応できた悪魔はごく僅か、それ以外の雑魚格は文字通り消し飛んだ。
「既に術式は出来てたんだよ、貴様が話している間にな。」
右腕いっぱいに、新緑色の文様が広がっている。
契約の紋章とは別の、悪魔を狩る文様だ。
「……お前…!」
「止めろ、シド。」
『一番早く』私の術式に反応した悪魔が、漆黒の悪魔を呼びとめた。
何言ってる、とでも言いかけたのか、大きく口を開いて、
「シドの目的は、この巫女を殺すことか?」
という冷静な言葉に、そのまま口を閉ざした。
―どうやら、一番やべぇのはこいつらしいな。
アレクシオが心の中でそう呟いた。
「この巫女、そこそこやるようだ…俺が行こう。」
シドと呼ばれた、漆黒の悪魔を呼びとめた…悪魔らしくない男がそう言ったことで、その場の緊張がピークに達した。