追憶乃記憶
悪魔らしからぬ男だった。
少年の青年の間あたりの歳に見えるが、悪魔は人間より成長も寿命も桁違いに遅く永いため、正確な年齢は分からない。
同じくらいの歳に見えた所で、実際にはもっと上なのだろう。
鴉の濡れ羽色の、首元で跳ねる短い髪。
夕暮れの太陽の色を濃くしたような、紅い瞳。南の方に多いといわれるような、私より浅黒い肌。
―ラグナ様と、似ていた。
ラグナ様より耳が尖っていて、少し肌の色が薄い。
顔つきはまるで違うのだが。
特徴だけは見事に一致していることが少し腹立たしい。
ラグナ様のような優しさが欠片も見られない冷たい瞳。
ピクリ、とそいつの指先が動いた瞬間、砂塵が舞いあがった。
「…ひらひらした布を巻きつけているだけかと思ったが…違うようだな。」
耳元で囁かれる様に言われ、思わず手に力を込めた。
周りの巫女に反応出来たものはいたのだろうか。
悪魔は一瞬で私の急所を…心臓を狙って剣を突き出してきた。
私の右腕に具象化された『カタナ』は東洋のもので、アレクが好んで腰に携えているものと同じ形状だ。
「悪魔は服装などにこだわるのか。人間を嘲っている割には、同じようなことをするのだ…なっ!」
カタナを振り払い、間合いを取って気付く。
悪魔の剣は、鞘がついたままだった。
「…何のつもりだ?情けでもかけようと?」
「…そんなつもりはない。こうでもしなければ剣が持たないと思ったからだ。」
淡々とそう返されることこそが、情けであるかのようなその響き。
苛立ちしか覚えないが、決して顔に出すことはしない。
その苛立ちをすべて殺気に変えてぶつけてやろうと、右手に纏わせた風の鋭さを上げる。