追憶乃記憶

 「だが残念だ。貴様の鞘はもう、使い物にならないな。」

 私が口角を上げた途端に、鞘に罅が広がり、カタナとぶつかった部分が音を立てて砕けた。
 砂塵が晴れ、巫女たちが歓声を上げた。

 「マリアンヌ様…!」
 「……巫女姫様…」

 悪魔は呆けたように鞘の砕けた部分を眺める。シド…漆黒の悪魔ですらが、目を見開いた。

 「…嘘だ……カイトの剣が…!」

 この悪魔の名はカイト、というらしい。
 まぁ名を知ったところで、全ての名を知ることが出来なければ封印は出来ないのだけれど。

 「元居た世界に戻れ、悪魔。」

 「そういう訳には、いかない。…シドの、頼みだから。」

 間髪入れずそう答えたということは、この集団には何かしら目的があってその首謀者がシド、ということで間違いないだろう。

 「なら、実力で排除せざるを得ないな。」

 元々異界に返す気なんてさらさらなかったのだが、聞いただけ無駄だったということだ。
 そんな考え事を張り巡らしながらも、腕の術式の他にも術式が完成したことを確認した。

―相変わらず、厄介な芸当だよなぁ…マリアのその鉄面皮は。

 アレクの溜息は完全に無視しておこう。
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