天使のアリア––翼の記憶––
「えー」

何だか、ウサギの言葉に素直に従う気にはなれなかった。ウサギが阿呆なせいだろうか。

「守ってやるのに嫌な顔すんな、阿呆!」

「この前数学と英語のテストで赤点取ったウサギに言われたくない!」

「それは今関係ねーだろ!」

「ありますよーだ!」

あっかんべーとからかうように舌を出した。

「こいつっ!」

そこでタイミング良く、

「はいはい、そこまでー」

我らが心のオアシス、学校のアイドルが仲介役で登場だ。

オレンジのギンガムチェックの細身のリボンを頭の上で揺らす天使がふわりと微笑んだ。毎日のことだけど、何という可愛さなんだ。本当に同じ人間だろうか。疑いたくなる。

「二人ともまた喧嘩してるのー? いい加減やめなよー。皆が注目してるの、気づいてないのー?」

「え!?」

乙葉の声でようやく自分の状況に気付いたらしいウサギ。

私と乙葉は顔を見合わせて溜息を吐いた。

「本当に馬鹿だね、ウサギは」

きっと皆さんは、また月子とウサギが喧嘩してるよ、くらいにしか思っていないだろうから、恋だの愛だの、なんだのかんだのって変な関係だと疑われることはないので、そこは有難いのだけど。

でも、必要以上に注目を浴びるのは勘弁したい。

それもウサギと、だなんて御免だ。

「本当にねー」

うんうん、と頷く乙葉。

やはり乙葉さんも同意見だったか。

「な、ちょ、乙葉まで!?」

乙葉まで私に同調したことに対し、慌てふためくウサギ。

「私、藍羅先輩との用事があるの。じゃあね」

私はブンブンと手を大きく左右に振る。

「また明日ー」

ヒラヒラと上品に手を振る乙葉と、

「てめっふざけんな、呼べよ阿呆ー!」

叫ぶウサギを後にしつつ、私は藍羅先輩との約束のため、いつも通り音楽室へと向かった。
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